鳥取大学 入学試験情報

トリダイ プロフェッサー霜村 典宏

  • 農学部生命環境農学科
  • 植物菌類生産科学コース

教授

霜村 典宏

Norihiro Shimomura

きのこの生態をたどると、
いつも新しい発見がある。

「ショウロ」というきのこ、ご存知ですか?

シイタケやマツタケなど、たくさんある食用きのこの一つにショウロ(松露)というきのこがある。あまり聞きなれないかもしれない。ショウロはクロマツ(黒松)林に発生し、特有の風味と食感がある。今ではとても希少な食べ物なので私たちの日常で食することはめったにない“珍重食材”。たとえば、そんなショウロの人工栽培法を探り、有望菌株の選抜や培養・接種方法について研究しているのが霜村典宏 教授。きのこの栽培研究に打ち込んでいる。

菌の一種であるきのこは不思議な生き物で、その生態や資源的価値としても未知なことが多い。クロマツがなければ発生しないショウロ。アカマツ(赤松)がなければ育たないマツタケ。このように異なる生き物がなければ成長できない共生きのこは「きのこが形成されるまでには、およそ20〜30年以上くらいの長いスパン(期間)が必要な種類がある。したがって、このようなきのこの栽培には長期的視点が必要です。そこが難しいところ」と教授は言う。すぐに「結果」が現れにくい生き物が相手になる。

ショウロを見ていくと、その共生関係にあるクロマツの生態やその周辺環境までも考慮しなければならない。クロマツ林は、海の沿岸部でよく見かける。その多くは砂防や防風林として植栽されてきたが、ショウロは、そこに生存圏を見つけて生きてきた。けれど近年「クロマツの樹齢が高くなったことや樹林の手入れが行き届かなくなったりして、ショウロも生えにくくなったのでしょう。ショウロは松林が置かれる状況の一つのインジケーター(指標)でもあるのです」。

東日本大震災で東北の被災地の沿岸部にあった松林も大きな被害を受けた。津波による海水流入で塩害を受け、松枯れによる護岸や防風林への影響が心配される。そこで、ショウロ菌の力を利用した海の沿岸林の再生に向けた試みを模索している。

毒きのこさえもつくる。その意味は?

ところで食用きのこの代表であるシイタケについて教授はすでに数品種の新種開発を手がけてきた。大学着任前に、研究の一方でシイタケ栽培の生産農家と直接ふれあいながらきのこによる産業育成にも携わっている。その経験から教授は「研究のための研究ではなく、現場、すなわち私たちが生きている実際の社会生活や動きとの関係性というのは教育の上で常に意識しています」と具体・具質性を問う。

それは「食べておいしいきのこ」開発だけにとどまらない。一方で、食べると危険な毒きのこの栽培も研究している。オオワライタケがその一つ。なぜ、そのようなことを……。教授は言う。「きのこの毒成分は新薬の開発につながる要素をもっている」と。

経年の生物の遺伝資源に私たちがすでに頼っているのだとすれば、ともに生きるきのこが発生する毒素そのものも未来への貴重な構成要素になっていくのかもしれない。「おそらく、きのこ類の菌株のコレクションは鳥取大学が世界でもトップレベルでしょう」。その土壌から学生に「発露」を期待している。

[取材:2014年2月]

1964年、鳥取県生まれ。

鳥取県立鳥取東高等学校卒、鳥取大学大学院連合農学研究科修了。博士(農学)。リンゴの落葉病について詳しく調べるうち、病原菌との関連に興味をもち、菌類は身近なものだと気づく。(財)日本きのこセンター菌蕈研究所研究員を経て鳥取大学へ。

「わかっているからやろうではなく、わからないから何でもやってみようという気持ちで学ぼう」と気持ちを学生に伝えたいと思っている。

鳥取大学入試一覧