トリダイ プロフェッサー大崎 智弘
- 農学部共同獣医学科
准教授
大崎 智弘
Tomohiro Osaki
天然アミノ酸でがんを見つけ
無害な赤い光を当てて
動物のがんを治療する。
ヒトの治療法改善にも貢献。
現在、日本人の2人に1人が一生のうちに何らかのがんにかかるといわれている。それは犬や猫などのペットも同じで、飼育環境の向上による高齢化に伴ってがんになるペットが増えている。動物のがんを従来の治療法より副作用が少なく、費用も安価でかつ効果的に治療できる方法を研究するのが、大崎智弘 准教授だ。体の中に存在する天然アミノ酸の一種である5‒アミノレブリン酸(5‒ALA)を用いる「光線力学療法」は、海外では既にヒトのがん治療法として適用されており、その療法を動物にも応用することで、ペットのがん治療法を進化させている。
5‒ALAは体内に入ると、青色の光に反応して赤色に光る物質に変化する。その物質はがん細胞に多く集まる性質があるとともに、無害な赤色の光を外側から当てると活性酸素を出して内側からがんをやっつける。鳥取大学附属動物医療センターでも、犬の皮膚がんに光線力学療法を行ったところ、がんはきれいに消えて抜けていた毛が生えてきたという。
夢のがん治療法のように思えるが、「まだ理想的な薬はなく、治療に用いる赤い光が皮膚を通り抜ける深さは1cm程度と限界があり、光源の開発にも余地がある」と、薬学や工学など他分野の研究者と連携してより良い治療法の開発に力を入れる。また、動物の臨床で得られたデータを医学部の研究に活用することでヒトへの治療法改善にも役立っている。
多分野と共同してイノベーションを起こす。
「祖父が動物好きな人で、犬や鳥、魚、リスなど多種類の動物に囲まれて育ってきた」といい、高校生の頃に流行った獣医師をモデルにした漫画の影響もあり、漫画の舞台にもなった北海道大学獣医学科に進学。大学生になって一人暮らしを始めてからも動物が身近にいる生活は変わらず、自宅で猫を飼ったり、馬術部に入って乗馬を習い、馬に乗って砂浜を走ったりしていた。
現在は臨床で動物の治療にあたりながら、講義を行い、自身の研究も進める。「自分の研究成果を生かして動物たちを治せることは、大学病院の獣医師として活動するモチベーションになっている」と話す。「いろいろな分野と協力してイノベーションを起こせる研究。学生には、一つのことにとらわれず、多方面から物事を考える視野を持ってほしい」と願っている。
[取材:2019年10月]
1976年、広島県生まれ。
博士(獣医学)。私立広島城北高等学校、北海道大学獣医学部卒後、同大学大学院獣医学研究科で博士号を取得。同大附属動物病院獣医師など経て、2010年から鳥取大学へ。2人の幼い子どものお父さんで、臨床、研究と忙しい毎日に「家族には迷惑かけています」。
趣味はドライブ、アウトドア、馬術。馬術部の顧問も務めるが、「なかなか馬に乗る時間がない」と仕事に集中する日々を送る。