トリダイ プロフェッサー久郷 裕之
- 医学部生命科学科
教授
久郷 裕之
Hiroyuki Kugoh
世界最先端の実力をもつ
鳥取大学の染色体工学。
発がんの仕組みを染色体の解明からアプローチ
国公私立大の合同進学ガイダンスとして開催される「夢ナビライブ」。2015年度の東京会場には4万名以上が来場したが、同ガイダンスの「学問の講義ライブ」で教壇に立ち、会場一杯のおよそ250名の参加者の前で染色体について熱く語ったのが久郷裕之 教授だった。
染色体工学研究センターは、全国でも類を見ない研究教育拠点として、染色体工学における教育研究及び社会貢献を通じて、世界に研究成果を発信している。充実した最新設備と技術力の高さを誇り、細胞工学から染色体を扱うことができるのは国内で同センターだけである。染色体工学研究センターで独自に開発された「人工染色体ベクター」は、数や大きさなどの制限なく自由に遺伝子をのせて、細胞に運ぶことができ、機能解析から薬剤開発まで幅広い分野で利用されています。例えると、他施設は自転車ほどの荷物に比べ、ここならトラック1台分の荷物を解析することも可能という凄さだ。
いわば日本の染色体工学のトップランナーともいえる同センターは、これまで数々の実績を残してきた。教授の研究グループは最先端の染色体工学技術を用いて、発がんのメカニズムを研究。遺伝子の集合体である染色体から細胞のがん化を抑制する遺伝子を探し出すことに挑戦。
そして、地道に実験と観察を続けた結果、ヒト5番染色体から、がんを抑制する遺伝子PITX1を発見。さらに、その働きを制御する因子マイクロRNA-19bを明らかにした。この貴重な研究結果は米国、英国のオンライン科学誌にも発表され注目を集めた。
コミュニティーを形成していた遺伝子
「最近の研究では遺伝子は単体で動くよりも隣、そのまた隣と並び合う遺伝子と強い関連性を示し機能しているパターンが多いことがわかってきました。遺伝子もコミュニケーション能力が大事なんですね」。さらには子宮がん、皮膚がんなどの種類によって、特定の染色体が関係していることも明らかになり始め、染色体工学が果たす役割に期待は高まっている。
研究者になった転機は社会に出てからだった。大手企業への就職が決まっていたが、生命現象への興味を捨て切れず、友人の紹介で非常勤として勤務したがんセンターにおいて、顕微鏡で初めて観たヒトの染色体は、まるで全宇宙のようだった。その美しさに魅了され、染色体研究の道へと方向転換した。
そんな体験から、学生には「様々な体験を通して、夢中になれるものを見つけチャンスを広げてください」とメッセージを贈る。
科学に興味があるならば、ぜひ鳥取大学医学部の染色体工学をのぞいてみてほしい。そこには、世界最先端の世界が待っている。
[取材:2015年11月]
1962年、東京都生まれ。
東京都立武蔵村山東高等学校卒、北里大学衛生学部産業衛生学科卒。神奈川県立がんセンター臨床研究所、鳥取大学医学部生命科学科、米国MDアンダーソンがんセンターなどを経て鳥取大学大学院医学系研究科教授に就任。2014年に染色体工学研究センター長を併任。日本癌学会、日本人類遺伝学会、日本分子生物学会、日本エピジェネティクス研究会に所属。
高校時代はバレーボールに熱中した。趣味は映画鑑賞、ランニング。