トリダイ プロフェッサー酒井 武治
- 工学部機械物理系学科
教授
酒井 武治
Takeharu Sakai
1万℃の高熱をくぐり抜ける。
大気を突いて帰還する、
宇宙機を守るために。
小惑星探査機「はやぶさ」のリターンへの想い。
2003年に打ち上げられた日本の惑星探査機「はやぶさ」は、小惑星イトカワに到達していくつかのミッションを終え奇跡的に7年後、地球に帰還した。地球以外の天体等から岩石などの試料を採取して持ち帰る「サンプルリターン」の成功は日本初の偉業として注目された。「“はやぶさ計画”は私がまだ熱気体力学を勉強していた学生のころに立ち上げられました。当時、高熱での気体・流体力学のデータ知見は欧米に頼ることが多く、日本では事前のシミュレーション技術も途上にあったと思う」という酒井武治 教授。
「はやぶさ」は工学試験の宇宙機であり、そのため、いくつかの実験ミッションを託されていたが、その一つに地球帰還の大気圏突入時に高熱で生じたであろう機体損耗を調べる課題もあった。地球を覆う大気層は高度によって空気密度が違うため、宇宙機が大気圏に突入したときに受ける空力加熱の度合は刻々と変化していく。「その変化と機体の熱劣化の進行状況を、より詳細に調べることができるセンサーを研究しています」。
地上だけでは確かめられない宇宙の物理へ。
宇宙機が地球の大気圏に突入する際には激しい空力加熱を受け、宇宙機前方の空気は1万℃以上にも達するという。この酷烈な高熱から機体内部を守るために機体表面は炭素繊維と樹脂で合成した特殊な構造のヒートシールド(熱防御材)で覆われている。ヒートシールドは高熱にさらされながら表面が溶け落ちて内部へと徐々に化学反応を起こしつつ熱分解し劣化していく。「その作用によってこそ熱伝導を抑えて機体内部を高熱から守っています。その過程でのシールドの損耗状況と加熱との相変化は実際、どうなんだろう」と探る。地上での風洞実験では想定した一定の設定でしかシミュレーションのデータは得られない。宇宙は変化する未知だ。教授たちは、そこから先に進み、直径2ミリにも満たない細い棒状のセンサー(アブレーションセンサー)を開発。このセンサーでシールドが受ける熱や損耗の相変化を、実際の宇宙機に組み込んだ実験をJAXA(宇宙航空研究開発機構)等の協力を得て試みようとしている。
「自主性とは、自分で考えて行動に移すこと。ずっと学ぶこともしかり。社会に出たあとも学生のころは楽しかったと思えられる自分でいてほしい」というのが学生への期待だ。
[取材:2017年9月]
1970年、埼玉県生まれ。
博士(工学)。埼玉県立浦和西高等学校卒。東北大学工学部機械工学科卒。同大大学院工学研究科航空宇宙工学博士課程修了。米国航空宇宙局(NASA)のエイムス研究所NRC研究員、名古屋大学大学院工学研究科准教授などを経て現職。NASA研究員のときは「日本への帰国は考えていなかった」というほどの挑戦者。
高校生のときはサッカーに夢中でポジションはDFだった。