鳥取大学 入学試験情報

トリダイ プロフェッサー伊藤 壽啓

  • 農学部共同獣医学科

教授

伊藤 壽啓

Toshihiro Ito

鳥インフルエンザの研究から、
獣医学が果たす役割の新しい視野を拡げる。

空を飛ぶグローバル課題。鳥由来感染症の動向を見続ける。

人の生命を脅かす感染症の中には、人と動物との間で感染する人獣共通感染症がある。BSE(牛伝染性海綿状脳症、狂牛病)やSARS(重病急性呼吸器症候群)の発生が国際社会に大きな衝撃を与えたことは記憶に新しい。そしてもう一つ、伊藤壽啓 教授が取り組んでいるのが鳥類から人に感染する「鳥インフルエンザ」である。とりわけH5N1(亜型)ウイルスに類する高病原性鳥インフルエンザに関しては、その発生が世界で初めて報告された1990年代後半からの付き合いだ。

「日本国内での鳥インフルエンザへの抑制策は、かなり整えられてきたと思いますが、世界的に見ると予断を許さない状況は、いつでもあると思います。とくに東南アジアなど海外の発生国との技術協力や行政レベルの連携は欠かせない」。そう話す教授は、ウイルスの感染経路やウイルス自身の変異等の未知なる動きに、絶えず関心を注ぐ必要性を強く感じている。

新型鳥インフルエンザの国内での発生当初から教授たちは、野鳥、特にカモなど国を超えて行き来する渡り鳥が感染の伝播に関係しているのではないかと推察していた。ところが、その観点を公に示すと鳥類など野生動物保護の立場から「動物を悪者扱いするのか」というような声を受けたこともある。いや、そうではなくて「私たちが思っているのは人だけではなくて野鳥や家畜のニワトリだって大変な被害を受けかねない、という懸念を伝えてきた。そうした経験と実証研究が、今ではかなり理解されるようになってきたと思います」。

国内唯一の専門特化した附属センターから世界に情報発信。

この研究には先人たちによる、ずいぶんと長い地道な努力が積み重ねられてきた。今でも野鳥の糞を一粒ずつ採取し、そこに宿るウイルスの分離・解析などが脈々と続けられている。ウイルスは自身が生き延びようとするために、その生命圏を次々と探して移動・伝播していく。その先は、たとえば最初は野鳥の生体内であったとしても、さらに鳥以外の動物へと広がろうとする。そうしたウイルスの居場所を「宿主域」と称するけれども、人もその連鎖の中にあることを忘れてはならない。ウイルスが宿主を変えた場合、ウイルスはどのように変化するのだろうか。

専門は獣医・公衆衛生学。教授は「ウイルスの動きを見ていくと、その宿主である動物と人との関連性が深いものだとわかってくる」という。獣医学といえば動物のお医者さんというイメージに結びつくかもしれない。しかし、動物と人には密接な相互のつながりが古くからある。それは「人だけによる人」ではくくれない世界が実際にあるということ。

「鳥インフルエンザのみならず、近年、次々と出現する新たな課題に対して獣医学が果たす役割はますます大きくなっていくのでしょう」と考えている教授は、人獣共通感染症対策について世界に共通する課題を提供しながら、その解決策を鳥取大学農学部附属の鳥由来人獣共通感染症疫学研究センターを基盤に発信してこうとしている。その活動が獣医学の新しい扉の一つを開くことになることを期待している。

[取材:2014年2月]

1958年、北海道生まれ。

北海道立滝川高等学校卒。北海道大学獣医学部卒業後、84年、同大学大学院獣医学研究科修士課程修了。獣医学博士。96年、鳥取大学へ。06年より同大学農学部附属鳥由来人獣共通感染症疫学センター長。

07年より農林水産省食料・農業・農村政策審議会家畜衛生部会家きん疾病小委員会委員・委員長、高病原性鳥インフルエンザ疫学調査チーム座長などを歴任。

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